複製人間戯曲
第86回生の谷徹也
僕は今年甲陽学院に入学したばかりの高校一年生。
どこにでもいる、普通の高校一年生。
だけど、普通のヒトとはかなり違うところもある―。
まあ、ためしに僕の日常生活をのぞいてみるかい?
ああ。休み時間だ。一時間目の授業は退屈だったな。
次は、体育か・・・。
ぼんやりしながら、眺めのいい窓際から港の方を見つめる僕。
ああ、ここから見ると船は何てゆっくり動いているんだ。
今日は快晴だ。何か心が広々とする。あの空の彼方には星が広がっているんだろうな・・・。
この時間は、僕だけの心のなごむ時間。
僕だけの、誰にも邪魔されない空間。
日常の蟠りが一気に開放されていく・・・。
そう思っていた矢先、僕がふと横を向くと、同じように海のほうを眺めている僕がずらり。
いや、正確には僕ではない。
僕のクローンだ。
つまりは、僕の学校が、僕のクローンばっかりだって事だ。
何?楽しそうだって?バカ言ってるんじゃあないよ。
まず、普通の人なら登校の時にびっくりするだろう。
だって、僕がいっぱいいるんだから・・・。
まあ、それはいいとして、授業のときはさすがに参るよ。
先生が「ここ分かる人」っていったとき、僕が分かることはみんなわかっちまう。
当然、僕が分からないところはみんな分からない。
だって、みんな僕をもとに作られたクローンだから・・・。
あ、そうか。次は体育だった。
僕の分身たちもあわてて服を着替える。
今日は、50m走の測定だ。
よし、がんばるぞ・・・。
―10分後―
ああ、そうだよ。わかってたよ。
僕がいくらがんばっても、みんな同じタイムだってことぐらい。
もう、これにも慣れっこなんだ。
ふん。もういいや・・・。
次の美術の用意をしよう・・・。
3学期の美術は新しい課題に取り組むらしい・・・。
ふーん。次の課題はメディアか。
そうだ!
その課題を聞いた瞬間、僕の頭にひらめいた!
こいつらだ!こいつらをホームページで紹介すれば、僕の立場、感情、憤りがみんなに分かってもらえる!!
よし!それで決定だ!
僕は会心のひらめきに心をときめかせた。
しかし・・・。
僕が課題とすべきことを決め、満足しながらホームルームに帰ろうと廊下を歩いていると、突如肩をたたかれた。
振り返ると・・・。クローンだ!
そして、そのクローンは、僕と全く同じ面に笑みを浮かべながらこう言った。
「君の考えてること、あててあげよっか?」
そうか!そうだったのか!
こいつらは、僕のクローン。ということは・・・。
「偶然、僕らも、同じ事考えてたんだ。だって、君は僕らのオリジナルだろ。」
(何だって?偶然だと!?ふざけるな・・・。全ては必然だろうがよぉ・・・。)
僕は心の中でつぶやいた。
「そうかな?まあ、必然といえば、必然だけど。」
(く、また心を読まれた!)
「だって、僕は君。君は僕なんだから。」
(また・・・。って、ことは、 俺は・・・?俺は誰なんだ?)
前からそうだった。自分と同じ顔で、自分と同じ考えで、自分と同じ行動をするクローンたちに、少なからず苛立ちを覚えていた。
自分がすることは他のみんなもする。自分のしないことは他のみんなもしない―。
自分に自由である空間はないのだ。みんな同じなのだ、区別のつきようもないのだ。
僕はそこで激しく錯乱した。
まるで『自分』という存在がこの世から消えてしまったかのように・・・。
おそらくは、心を丸ごと見透かされたようで、自分の"意思”を失ったために正常な思考が働かなかっからかもしれない。
しかも、日頃から溜まっていたクローンへの鬱憤が己の体内では納まりきれずに、外に放出されたのだろう。
僕は叫んだ。
僕は泣いた。
僕は・・・。
気づいたら僕は学校の屋上にいた。
おそらくは咆哮しながらここまでやってきたのだろう。
いつもなら目を留めるはずの神々しい夕焼けに包まれながらも、僕の精神は空虚に彷徨っていた。
今、こうやっているからこそ、自分が選んだとおりに行動しているからこそ、僕は僕でいられるのだと思う気持ちが、唯一崩れかけた心に歯止めを掛けていた。
朧気な残影に 呑み込まれた甲陽学院の上空を、哀しげに啼きながら鴉が飛び去っていく。
一人たたずむ若者の姿が、そこにあった。
神は生きとし生けるもの全てを創造した。
もちろん人間もだ。
そうした中で、高度な思想を与えられた、たった一生物"人間” によって神の地位への冒とくがなされてしまった。
ヒトは、自分たちの英知に奢ったのだ。
ヒトは、自分たちの永遠の繁殖を信じたのだ。
そうしてヒトは、大きな過ちを犯してしまったのだ。
しかし、人間ほど自らの過ちに疎い生き物はいない。
彼らは、遂に自分たちをも、その過ちに引きずり込んでしまったのだ。
クローン人間。
それは、人類最大の"敵”ではないだろうか。
今ここに、その余波に飲み込まれ、自らを破滅の淵に追いやってしまった若者がいる。
人類も彼のようになってしまうのだろうか?
それは誰にも分からない。
しかし、これだけは言えよう。
それは賢い彼らの頭以前に、彼らの最も人間らしい、『理性』の使い次第であろう、と。
この駄文のように、心のつぶやきのごとく書くのは、あまり得意ではないのですが、敢えてこのようにしました。
やはり、皆さんにも僕と同じ視点で、主観的に読むことが出来るようにしたかったので。
楽しんで読んでいただいた方も、つまらない、と飛ばし飛ばし読んだ方も、クローン人間の及ぼす影響について理解を深められたのなら、僕はそれでいいと思います。
やはり、人が「ヒト」として生きるためには個性が必要ですからね。
皆さんも、自分の個性、大事にしてください。
決してクローンのように、おもしろみのない未来がやってこないように・・・。
2003・3 谷 徹也
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